生産者
立ち入り禁止?のたまご農場
2020.12.08
南北に長く延びる常滑市の中心部は、少し離れると建物がポツポツと見えるのどかな光景が広がる。そんな道を走っていると、道沿いにたまに見かけるのが農場の名前が書いてある看板だ。伝染病などの危険性もあり、入り口には「関係者以外立ち入り禁止」の標識も見かけるので、関係者以外には中の様子すらうかがい知ることができない。あまり知られていない常滑のたまごの世界を少し覗いてみよう。
― デイリーファームと眞澄氏の歴史
「農家レストラン」や「6次産業」など、常滑市にはそんな最新キーワードであふれる先進的な取組みを実行している事業者がいる。そんなキーワードでも登場するのが、常滑で鶏卵を生産している「デイリーファーム」だ。最新キーワードが登場する取組みだから、新規就農者のようなイメージを抱くかもしれないが、それは間違いだ。
デイリーファームが始まりは、1926年の大正末期。現在の社長である市田眞澄氏の先代まで時代はさかのぼる。創業当時はにわとりを孵化させる仕事をしていたが、眞澄氏の代になり現在の姿である養鶏場になった。養鶏所として事業は上り坂になるほど、甘いものでもなく、世の中は効率化が進み続け、孵化場が寡占化。取引の国際化も激しくなっていった。たまごに関わる仕事の状況は、めまぐるしく変化し続けてきた。
父の仕事を継ぐのが当たり前だと感じていた眞澄氏。自分が将来継ぐ仕事ととして見ていて、あることを感じていた。「先代の仕事を見ていて思ったのは、ひよこが病気になるのをなんとかしたいということでした」。よほど強く心に刻まれたのだろう。眞澄氏は鶏病の勉強を続け、ついには獣医の免許を取るまでに至った。
― 安全安心なたまご作りのはじまり
父の仕事を引き継ぐことを考え、そして自分が取り組むのであれば病気になる鶏をなんとかしてあげたいと獣医になった眞澄氏。そんな眞澄氏が主となり、デイリーファームとして取り組んだことは「安全安心なたまご作り」。考えると当たり前なことなのだが、元気な鶏こそ、元気なたまごを産む。たまごは普段からよく食べる食材。子供からお年寄りまで食べるものだからこそ、安全安心であるべきだし、だからこそ元気な鶏を育てるべきだと考えたのだ。
具体的に取り組んだことは、例えば抗生物質を使わないような育て方を採用することだ。他にも、GPセンター(グレーディング・アンド・パッキングセンター)を平成8年には取り入れたり、平飼いでは管理の難しい鶏の健康管理を鶏舎を囲い空調を完備する施設を導入してきた。しかし、たまごの業界で生き残りながら、自分の考えを実践することは並大抵のものではなかった。
― 「たまごは物価の優等生」の真実
たまごは食糧難の時代から、現代のいわゆる飽食の時代に至るまで、価格変化の少ない品目として知られてきた。それはつまり、消費が増えるにつれ、ハイスピードで生産も増やすことができたということで、効率化と大規模化をおこなえた品目ということだ。これは、消費者にとってはとてもありがたいことなのだが、農家の視点から考えるとまったくの逆。投資ができる農家のみが「安いたまご」を大量生産して利益を出し、それ以外の農家のたまごは「高いたまご」をつくらざるおえなくなってしまう。
そんな状況の中で眞澄氏が考えたのは、「これからのたまご農家はオリジナリティーがなければ難しくなる」ということ。自分の「安全安心なたまご作り」は、今後のたまご業界で生き残る為には必要だと考えた。1991年に社名を「デイリーファーム」として設立するのだが、これもまた「日々こそが大事である」という自分の想いを伝えたいという気持ちの表れだった。日々食べるたまごだからこそ、大切に、そして体に良いものを自信を持ってつくるべきだと、デイリーファームは前進を続けている。
― たまごをつくる、鶏が食べるもの
たまごが物価の優等生で有り続けられる理由のひとつに、たまごをつくる鶏の飼料生産の効率化は外せない。常に低価格の飼料を供給し続けてきたのは、どこか一カ所で大量生産しているからである。つまり、日本の飼料のほとんどは海外に依存しており、効率を極限まで高めるために遺伝子組み換えされた飼料が使われていることも多い。そんな現実に対して、眞澄氏は「たまごは人間のからだをつくるもので、そのたまごをつくる鶏をつくる飼料もまた、安全安心であるべき」と考えた。なるべく国内でつくったものであれば、生産現場のこともわかるのでより自信を持って売れるたまごになるが、価格があまりにも高くなってしまう。
そこで考えたのが、飼料米をつかった循環だ。最近では農家の高年齢化、そして家族が農業を継がなくなったなどの問題から、放棄された田んぼが目立つようになってきている。そういった放棄地を活用して、農家に全量買い取る約束をして飼料米を生産してもらう。肥料としてデイリーファームの鶏糞を活用し、そしてできた飼料米はデイリーファームの鶏が食べる。つまり、デイリーファームの飼料米でできたたまごを食べると、農業の問題も解決しつつ、全ての工程が目に見える安全安心なたまごの生産が実現するというわけだ。こうした考え方からうまれた商品「米たまご」は、いまではデイリーファームの看板商品のひとつとなっている。しかし、これも順風満帆ではない。「もちろん、皆さんに食べてもらわないと循環はしないので、価格なども含め、簡単ではない」と、眞澄氏はたまごの売ることの難しさを常に感じているのだ。
― たまごの良さを伝える、新たな取組み
あなたは、一日にたまごを何個食べるだろうか。一週間に何個食べているだろうか。目玉焼きだったり、卵焼きだったり、生卵をご飯にかけていたり。あるいはサラダについているマヨネーズや、ケーキやクッキーなんかにもたまごが使われている。加工品も含め、多くの人は気づかないうちに毎日沢山のたまごを消費している。でも、だからこそ、たまごの味や品質をマジマジと比較する人は少ない。
たまごも他の生産物と同じで、味も成分も変わってくる。その違いを感じるには、やはり自らの手を動かして体験してみることが近道となる。そこでデイリーファームのたまごを扱うココテラスやレシピヲでは、たまごの直売はもちろん、お菓子や料理を提供するだけにとどまらず、お客様がたまごの違いを体験して頂くプログラムの開発も行っている。これを機会にデイリーファームこだわりの想いが詰まったたまごを体験してみてはいかがだろうか。
詳 細
たまごの里 デイリーファーム
住所 愛知県常滑市大谷芦狭間5
TEL 0569-37-0072
WEB https://dailyfarm.co.jp/